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発酵の勉強

発酵の勉強をしてみましょう。
(ここでは比翼鶴の製造方法に則って説明していきます。)
 
お米の主成分はデンプンです。デンプンはブドウ糖がたくさん繋がってできています。この繋がっている部分をハサミの様にチョキンチョキンと切っていくのが米麹の役割です。このことを糖化①と呼びます。米麹によってデンプンから分解されたブドウ糖は酵母のエサになります。酵母がブドウ糖をパクッっと食べるとアルコールと二酸化炭素ができます。このことをアルコール発酵②と呼びます。この糖化とアルコール発酵が同時に進むことを並行複発酵と呼びます。
 
このように、お米がお酒に変わっていくことを発酵といいます。
誰が変えるのかというと、酵母という名の微生物です。
 
まずは微生物の話から。
微生物とは目に見えない小さな生き物のことを言います。
寄生虫からウイルスまで様々な大きさの微生物がいますが、ここではカビ、酵母、細菌を中心に話を進めます。
これらの微生物は私たちのくらしの中のいたるところに存在します。
私たち生き物の体の表面から口の中から腸の中、水の中に空気中、そして土の中、野菜や果物など植物の表面にもたくさんの微生物が生きています。
 
そもそも発酵って何でしょう?
発酵とは微生物の働きで、ものを分解したり変化させたりすることを言います。そして、その出来上がったものが私たち人間にとって有益なら発酵と呼び、有害なら腐敗と呼びます。発酵菌と腐敗菌の違いは人間にとって役に立つか立たないかですが、この役に立つ発酵菌と上手に付き合っていくことをバイオテクノロジーと呼んでいます。
 
発酵でできた食品の数々。
私たちの祖先は微生物の存在を知る以前から選択的に役に立つ発酵菌を選んで付き合ってきました。日本古来のものだと、日本酒に始まり、焼酎、味醂、酢、味噌、醤油、納豆、糠床、漬物、鰹節、くさや、なれ鮨。海外に目を向ければ、ワインやビールにパン、チーズ、キムチ、ヨーグルト、テンペといった様々な食品が作られてきました。
 
どうやって発酵菌だけを選んだの?
微生物は繁殖して集団を作ります。集団を作ればその集団の中では他の雑菌が繁殖しにくいという性質があります。発酵菌がたくさん繁殖してしまえば、そこに後から腐敗菌が入ってきてもその中で増殖することができません。ですので、発酵のコツとは腐敗菌が繁殖する前に発酵菌だけを繁殖させてあげれば良いのです。
一般的ですが発酵菌は低温だったり、環境が酸性やアルカリ性と言った私たちから見ると少し厳しい環境の中でも育つことのできる菌が多いようです。それに対し、腐敗菌は常温で環境も中性といった、我々の住みやすい優しい生活環境で元気よく繁殖します。こういった生活環境の違いを利用して有効な発酵菌を選んでいきます。
 
日本酒造りを支える微生物たち
日本酒造りに付き合ってくれる微生物は麹菌に清酒酵母に乳酸菌です。
 
麹菌とは米麹を作る際に蒸米に繁殖するカビのことです。
もともと麹菌というのは自然界の中では稲の穂先に黒い固まりとして付いていたそうです。もちろん麹菌だけでなく他の有害な菌も一緒に付いていたはずです。しかし、麹菌はアルカリ性でも生育できることから、蒸した米に木灰を振りかけてアルカリ性にして麹菌だけを繁殖させました。アルカリ性にすることでアルカリ性条件下では生育しない雑菌を繁殖させなかったわけです。このようにして種麹を作り、実際のお酒造りではこの種麹の胞子を蒸米に振りかけることで米麹を作っていきます。
 
お酒造りの主役である酵母は、酸性の環境でも繁殖することができます。この性質を利用して、乳酸菌に作らせた乳酸を使って醪(もろみ)を酸性にし、低温で雑菌が繁殖しないようにして優良な清酒酵母だけを育てていくわけです。
 
お酒は酵母が作っている。
お酒の仕込みは自然開放の状態で行われます。雑菌の混入をを防ぎながら酵母を十分に繁殖させる為に、醪(もろみ)を一度に仕込まず、酵母の増殖のスピードに合わせて三段階に分けて仕込みます。この事を三段仕込みと呼び、室町時代から経験的に行われていました。一度に全量を仕込むと酵母の絶対数が一時的に減ることによる雑菌の混入により腐造の恐れがあり、それを防ぐ為です。仕込み後、醪の中で酵母が十分に繁殖すれば、あとは米麹が蒸米(掛米)を溶かしてブドウ糖にし、そのブドウ糖を酵母が食べてアルコールを作っていきます。十分に繁殖した酵母は醪1g中に1億個以上もいます。比翼鶴の発酵しているタンク1本の中には約500兆個の酵母がいて、図の様にお酒造りをしてくれていることになります。私たち蔵人がいう仕込みから掃除までの一連の蔵仕事とは、これらの微生物の環境を整えること、ということになります。
 
微生物の退場
熟成した醪をしぼれば日本酒の完成ですが、しぼりたての日本酒の中にはまだ米麹が作る酵素や酵母が残っています。微生物は生き物ですので、エサを食べて発酵生産物を作ります。発酵が終わりエサが無いにも関わらず活動すると今度はせっかくの出来上がったお酒の味わいを変調させる原因となります。その為に火入れと言ってお酒をあたためることで微生物や酵素の活動を止めてしまう必要があります。
火入れは戦国時代には既に行われており、パスツールが低温殺菌法を発見する300年も前から私たちの祖先は経験的に保存性を高める方法を知っていたことになります。現在では冷蔵庫で保存し酵母や酵素の活動を押さえた生のお酒も人気があります。
 
日本酒の誕生
火入れを経て日本酒の発酵は終わり、貯蔵熟成へと移行します。しぼりたてのフレッシュな味わいも美味しいですが、熟成した秋上がり(ひやおろし)のお酒の味わいも格別です。お酒はしぼりたてから熟成したお酒まで、季節による味わいの変化を楽しめる飲み物です。また、冷やから熱燗まで様々な温度帯で楽しめるのは日本酒ならではの特徴です。季節、季節での味わいをお楽しみください。